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千葉地方裁判所八日市場支部 昭和43年(ワ)9号 判決

原告 加瀬美代子

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 鶴岡亀寿

被告 大阪商事株式会社

右代表者代表取締役 光山奉憲

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 田中登

第一、主文

被告らは各自原告加瀬美代子に対し金百八十一万三千六百六十四円、原告加瀬ちよ子に対し金百五十四万千八百三十二円を、原告加瀬美代子に対しては金百六十五万三千六百六十四円に対する被告大阪商事株式会社は昭和四十三年二月四日以降、被告高橋勝好は同月五日以降、原告加瀬ちよ子に対しては金百四十万千八百三十二円に対する各前同日以降、支払済に至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を付加して支払え。

原告らその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担、その余を原告らの負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。但し被告らが原告加瀬美代子に対しては金百二十万円、原告加瀬ちよ子に対しては金百万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

第二、原告らの申立

被告らは連帯して原告加瀬美代子に対し金五百七十二万四千七百十九円、原告加瀬ちよ子に対し金四百二十一万二千三百六十円を、右各金員に対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を付加して支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

第三、争いない事実

(一)  本件死亡事故発生

とき  昭和四十二年一月六日午後一時

ところ 千葉県匝瑳郡野栄町野手一万六百二十五の一番地先町道上

事故車 (1) 大型貨物自動車、千一な一九四七号(以下トラックという)

(2) 第二種原動機付自転車、野栄町〇五五七(以下バイクという)

運転者 (1) 被告高橋勝好

(2) 加瀬金之蔵

死亡者 右金之蔵

態様  被告高橋がトラックを運転して前記町道を野手海岸方面に向って南進し、事故現場にさしかかったところ、海岸方面から北進してきた金之蔵運転のバイクと衝突し、金之蔵は現場で死亡した。

(二)  身分関係

原告加瀬ちよ子は亡加瀬金之蔵の妻で、原告加瀬美代子は金之蔵の長女である。

亡金之蔵の権利義務は法定相続分に従い、原告ちよ子が三分の一、同美代子が三分の二の割合でそれぞれ承継した。

(三)  責任原因

本件加害トラックは被告大阪商事株式会社(以下被告会社という)の所有で、被告高橋勝好は被告会社の被用者であり、本件事故当時、被告会社の業務のために右トラックを運転していたものである。

(四)  原告らの保険金受領

原告らは昭和四十三年三月頃、加害トラックの加入する自動車損害賠償責任保険から金百五十万円の弁済を受けた。

第四、争点

(原告らの主張)

(一)  事故原因について

本件事故は被告高橋が左側通行を怠り、ことさら見通しの悪い道路右側を相当の速度で進行した過失によって生じたものである。即ち本件事故現場は同被告の進路が向って右にカーブしている地点で、道路の左右には農地区画整理用のヒューム管が積んであったので、これが道路右側に寄って進行した同被告の視界を妨げたのであるが、法規通り左側を通れば優に百数十メートル前方まで見とおしのきく場所だったのである。しかるに同被告は道路の左側に一・二メートルの余地を残して進行していた。しかも道路の幅は四メートルでトラックの車体幅は二メートルであったから、対向車に残された余地は一メートル未満でたとえバイクが停止していてもそのままではバイクのバックミラーと接触を避けられない状況であった。被告らはバイクが高速で進行したと主張するが、仮にそうであったとしてもバイクのスピードの大小にかかわらず、トラックの右側通行のために両者が無事にすれ違うことは不可能であった。

(二)  亡金之蔵の蒙った損害と賠償請求権の承継

(1)  亡金之蔵は死亡当時二十三歳で訴外有限会社林木材工業に勤務し、年収四十万円を得ていた。これから同人の年間生活費として十二万円を控除した二十八万円が同人の年間純収益であり、第十回生命表による死亡当時の同人の生存予定年数は四十四・九七年であるので、右の期間中同人が得べかりし純収益総額の現在価額を中間利息年五分として計算すると金三百八十七万六千百二十七円となる。

(2)  前記訴外会社は金之蔵に対し同社において四十五歳まで勤務するときは退職金五百万円を支給することを約していた。同人が右年齢に達するまで二十二年間の中間利息を控除した右金額の現価は二百三十八万九百五十二円となる。

(3)  本件事故により金之蔵所有のオートバイが破損し、その価格は八万円であった。よって金之蔵は本件事故によって総額六百三十三万七千七十九円の損害を蒙り、被告らに対し同額の賠償請求権を取得し、原告らが相続によりこれを承継した。その各々の承継額は法定相続分により原告ちよ子が二百十一万二千三百六十円、原告美代子が四百二十二万四千七百十九円となる。

(三)  原告らの精神的損害等

(1)  原告ちよ子は金之蔵の遺体の処理及び葬儀費用として金二十万円を支出した。

(2)  原告両名は夫であり父である金之蔵の死により現在及び将来にわたり多大の精神的苦痛に耐えて行かなければならない。この苦痛を慰めるため被告らが支払うべき金額は、原告両名につき各々二百万円を下るものではない。

(3)  原告らはその権利を実現するため弁護士に訴訟提起を委任し、その報酬として原告美代子は五十万円、原告ちよ子は四十万円の支出を要した。これは本件事故と相当因果関係ある損害として被告らが賠償すべきものである。

(四)  結び

以上の金額を合計すると、被告らに対し原告ちよ子は四百七十一万二千三百六十円、原告美代子は六百七十二万四千七百十九円の損害賠償請求権を有することになるが、原告らは先に自賠責保険により受領した金百五十万円のうち五十万円をちよ子の、百万円を美代子の右各債権に対する一部弁済として充当したので、原告ちよ子は四百二十一万二千三百六十円、原告美代子は五百七十二万四千七百十九円の各残額及びこれに対する本件訴状送達の翌日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張)

(一)  過失相殺について

本件事故発生については、被告高橋にも過失があったことは認めるが、被害者亡金之蔵にも重大な過失があるので、過失相殺を行われるべきである。

本件事故現場は原告主張の如く被告トラック通行方向からみて道路が右にゆるくカーブした地点で、当時耕地整理事業の工事資材としてカーブ手前の道路両側にU字型ヒューム管が三段に約二・五メートルの高さまで積みあげてあった。また工事のため道路の有効幅員は四・二メートルであった。被告高橋はトラックを運転して時速二十乃至三十キロで進行し、事故現場に至り、前記ヒューム管のため右前方道路に対する見とおしがきかないままカーブを曲ったところ、突然被害者のバイクが時速六十乃至七十キロの猛スピードで自車直前に現れたため、これを避けるいとまがなく、トラック右前部をバイクに接触させてしまったものである。バイクのスピードがこの程度に達していたことは、その速度計が事故発生後時速六十五キロ強を指して止っていたこと、バイクのスリップ痕が認められなかったこと、トラックのスピードが衝突の瞬間には時速十キロ以下であったことがトラックが衝突地点から一乃至二メートル進行して停止している事実からうかがわれるのにかかわらず、トラック及びバイクの破損状況や金之蔵の前歯、肉片、毛髪などが脱落してトラックに付着し、同人が即死に近い状況で死亡したことから、衝突のはげしさが知られることなどによって明らかである。

次に被告高橋は道路中央部を進行したもので、ことさら右側を進行したものではない。このことは衝突時におけるトラック(車体幅二・〇三五メートル)の位置が左側タイヤ部分において道路左側端から一・〇六五メートル、右側タイヤ部分において右側端から一・一メートルであったことから明らかである。本件事故現場の道路有効幅員は四・二メートルしかなく、もとより道路中心線などない未舗装の田舎道で、耕地整理に伴うU字型ヒューム管埋設のため道路両側端は荒れており、余り端に寄って進行すると路肩の状況によってはハンドルをとられるおそれがあり、トラックが道路中央にまたがって進行したのは、やむを得ない措置であった。

被害者金之蔵としてもこのような狭い道路においては対向する車両が道路中央部を進行してくることは当然予期すべきであったのに、漫然道路中央部を前記のような高速で走り、わずかに衝突直前ハンドルを左へ切ったが間に合わず、その進路からみて道路左側端から一・一メートルの地点でトラックと衝突しているもので、被告高橋のみを中央を通ったとして責めるべきではない。

(二)  逸失利益、慰藉料、弁護士費用等に関する原告らの主張はいずれもその額を争う。

第五、証拠関係

≪省略≫

第六、争点に対する判断

(一)  事故状況について

≪証拠省略≫を綜合すると、以下の事実が認められる。被告高橋は時速約四十キロメートルでトラックを運転し、本件事故現場にさしかかった。道路は小粒な砂利まじりの乾燥した町道で両側は水田であり、有効幅員は四・二メートルで事故現場の直前で約二十度右にカーブし、カーブの手前で道路右側にヒューム管が約二・一メートルの高さに積みあげられていたため、前方の見通しは妨げられていた。トラック(車体幅約二メートル三センチ)は道路のほぼ中央を左側に約一メートルの余地を残して進行し、カーブにかかろうとした時、被告高橋は前方約二十メートルの地点にバイクを運転して対向してくる被害者加瀬金之蔵を認め、急ブレーキをかけたが及ばず、約八メートル余り進行して右前部にバイクを衝突させ、なおわずかに進んで停止した。

金之蔵は時速約六十五キロメートルで進行し、ブレーキをかけたか否かは不明であるがスリップ痕は残さずに、道路端から約一・一メートルの位置にあったトラック右前輪の上のフェンダー部分に激突し、顔面及び頭部右側に負傷し、間もなく絶命した。

(二)  過失相殺について

以上の事実に基いて判断すると、被告高橋は見とおしのきかない右カーブ地点を進行するに際して徐行せず、また左に約一メートル寄る余地があったのにかかわらず、あえて見とおしの悪い中央部分を進行したものであるから、これらの過失は当然本件事故の要因となったものと言わなくてはならない。このことは被告高橋の左側助手席に同乗していた証人梅原敏一が同証人の位置からは運転手席からよりもはるかによく前方を見とおし得たという趣旨の供述をしていることからも明らかである。従って同被告及び同被告の使用主で同被告がその業務に従事中本件事故が発生したことに争いのない被告会社は本件事故によって生じた損害の賠償責任を免れない。

しかし被害者金之蔵としても見とおしの悪いカーブ地点で六十キロをこえる高速で進行したことは明らかに危険な行為であって、この過失がなければ本件事故の発生を見ずに済んだか、あるいは仮に発生したとしても死亡事故には至らずに済んだ可能性が大きいから、被告らの過失相殺の主張はこの点で理由がある。そして強者負担の原則を考慮に入れて両者の過失の程度を評価すると、本件事故に基く被告らの原告らに対する損害賠償責任は、生じた損害の六十パーセントの限度で負担させるのが相当である。

(三)  賠償金額について

(亡金之蔵の損害)

≪証拠省略≫によれば、被害者金之蔵は死亡当時二十三歳の健康な男子で、訴外有限会社林木材工業に勤務し、月給三万円、盆暮に二万円ずつのボーナスを支給され、年収四十万円を得ていたことが認められる。厚生省発表の第十一回生命表によれば満二十四歳の男子の平均余命は四十五・四八年であるから、金之蔵は本件事故にあわなければこれと同程度生存し、そのうち六十歳に達するまでの三十七年間は、少なくとも前記収入と同程度の収入を得ることができたものと考えられる。原告らは金之蔵が右収入をあげるために必要な生活費は年額十二万円であると主張する。この金額は生涯を通じての平均としては低すぎる感を免れないが、前記四十万円の年収自体も通常年を重ねるに従って上昇すべきものであることを考えれば、金之蔵の年間逸失利益を四十万円から十二万円を引いた残額二十八万円とする原告らの主張は、結局認容すべきものと考える。そこで将来三十七年間にわたる年額二十八万円ずつの過失利益の現価総額を年ごと式ライプニッツ法により年五分の中間利息を控除して計算すると(ライプニッツ法がホフマン法より合理的であることについては判例タイムズ二百十二号百三十ページ参照)、四百六十七万九千百六十円(円未満四捨五入)となる(原告らが主張する逸失利益額三百八十七万余円は、一括式ホフマン法によったものと思われるが、いちじるしく不当に低すぎる計算法というべく、これに拘束される必要はない。もっとも全体をあわせて原告の請求額以上の金額を認容することができないのはいうまでもない)。原告らはこの外に金之蔵は四十五歳まで現在の会社に勤務するときは五百万円の退職金を受けることができたと主張し、証人林勇の供述によれば会社代表者である同証人と金之蔵との間にそのような話があったことがうかがわれるが、これは通常の意味における退職金というよりも、同証人が金之蔵に特別の好意を寄せていたため個人的な贈与の意向をほのめかした程度のものと認められ、到底法律的保護の対象となる契約上の権利とは認められないし、その他退職金に関する何らかの確実な取りきめがあったことは証拠上認められないので、原告らのこの点の主張は理由がない。

次に≪証拠省略≫によれば本件事故により金之蔵所有のオートバイが使用不能となったが、事故当時のその価格は八万円相当であったことが認められる。

従って金之蔵は本件事故の結果、将来得べかりし利益を失い、かつオートバイをこわされたことにより、合計四百七十五万九千百六十円の損害を蒙ったことになり、前記の過失相殺により被告らはその六十パーセントに当る二百八十五万五千四百九十六円について賠償責任を負担すべきである(後記の葬儀費、慰藉料などについては過失相殺は行わない)。右金額を法定相続分に従い分割すると、被告らは原告ちよ子に対し九十五万千八百三十二円、原告美代子に対し百九十万三千六百六十四円の支払義務を負うこととなる。

(葬儀費用)

≪証拠省略≫により、原告ちよ子は金之蔵の葬儀費用として二十万円を支出したことが認められる。

(慰藉料)

前記認定にかかる本件事故の態様及び≪証拠省略≫により認められる原告ちよ子は本件事故当時妊娠中で、その後に原告美代子を出産したものであり、ために美代子は生まれながらにして父を知らぬ子として成長しなければならぬ事実などを斟酌すると、原告両名に対する慰藉料をそれぞれ金七十五万円ずつと定めるのが相当である。

(保険金の充当)

以上の金額を合計すると被告らは原告ちよ子に対し百九十万千八百三十二円、原告美代子に対し二百六十五万三千六百六十四円の支払義務を負うこととなるが、これから原告らが自認するちよ子に対する五十万円、美代子に対する百万円の自賠責保険金をそれぞれ差引くと、残額はちよ子について百四十万千八百三十二円、美代子について百六十五万三千六百六十四円となる。

(弁護士費用)

弁論の全趣旨より原告らが本件の訴訟代理人弁護士鶴岡亀寿に対して手数料及び報酬の支払義務を負っていることは明らかであり、その金額は認容額の一割を下らないものと認められるが、そのうち被告らが原告らに対し賠償すべき金額は原告ちよ子に対し十四万円、原告美代子に対し十六万円とするのが相当である。

(結論)

以上により被告らは各自原告ちよ子に対し百五十四万千八百三十二円、原告美代子に対し百八十一万三千六百六十四円、及びこのうち原告ちよ子に対しては百四十万千八百三十二円、原告美代子に対しては百六十五万三千六百六十四円につき、それぞれ本件訴状送達の翌日(記録によれば被告会社に対しては昭和四十三年二月四日、被告高橋に対しては同月五日である)から支払済まで民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務があるので、原告らの請求を右の限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法九十二条、仮執行の宣言について同法百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田信也)

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